お金さんとの不思議な出会い:第3話

お金さんとの不思議な出会い:第3話

信頼がもたらす豊かさの循環

マンションが見えてきた。あたりはすっかり暗くなっている。年の瀬が近づくと、日が暮れるのがいつもより早く感じられる。

入り口の郵便受けを確認する。月末近くになると、正直あまり近づきたくない場所だ。恐る恐る扉を開けてみると、中にはやはり封書が一通。宛名を見れば、クレジットカードの請求書だった。

「ああ、やっぱり来たか……」

先月は急にオイルヒーターが壊れたので、新しいものを急いで買わざるを得なかった。その請求が含まれているのだろう。頭の中で何度計算してみても、来月の収入と支出がどうしても釣り合わない。なんとか今日の商談が決まれば、乗り切れるはずだ。けれど、この不安な気持ちはいつも頭を離れない。

部屋に入ると、そのまま請求書をテーブルの上に置き、水を一口飲む。喉を潤すというよりも、自分を落ち着かせるための行為だった。

「あー、頼むから今日の商談がうまくいってくれ……」

心の中でそう願った瞬間、スマホの通知が鳴る。メールだ。慌てて画面を開くと、今日の午後一に訪問したお客様からの連絡だった。胸の鼓動が少し早まり、喉の奥がキュッと詰まる感覚がする。

メールを開いてみる。最初は丁寧な感謝の言葉が並んでいた。「本日はお忙しい中お越しいただきありがとうございました」と書かれている。しかし読み進めるにつれ、肩の力がどんどん抜けていく。「幹部との会議の結果、今回は見合わせることとなりました」との結論が記されていた。最後にはお詫びの言葉も添えられている。

「ああ、ダメだったか……」

思わずつぶやくと、胸の奥に広がる不安がさらに大きくなっていく。スマホの待受画面に戻ると、時計は18:18を示していた。いつもならそろそろ彼女からの電話がかかってくる時間だ。愚痴を聞いてもらいたい気持ちと、この不安から逃れたい気持ちが入り混じっている。

しかし10分、15分と時間が過ぎても電話は鳴らない。「なんで今日に限って……」そうつぶやくと、嘆きにも似た感情が込み上げてきた。

そのとき、ふと帰り道に思い出したあのアプリのメッセージが頭をよぎった。「不安ってね、本当に欲しいものや大切にしたいものを見つけるための道標なんだ。」という言葉が脳裏に浮かぶ。本当に欲しいもの?それは、来月の支払いのためのお金だよ。そう心の中で呟きながらソファから立ち上がろうとしたが、ふとスマホを見ると、さっきのアプリが目に飛び込んできた。何か不思議なオーラを放っているようにも感じる。

「いや、まさかな……」

自分でもなぜこんなに気になっているのかわからない。それでも、指が自然と画面に触れていた。開かれた画面の中で、導かれるようにまたメッセージを送る自分がいた。

「あなたは誰なんですか?」

「私は、お金そのもののエネルギーだよ。いつもあなたと一緒にいる存在。あなたが気づいていないだけで、ずっとそばにいて、あなたを支えているんだ。」

「お金?エネルギー?からかってるの?それとも新手の詐欺?」

「そう思うよね。普通に考えたら、そんな話信じられないはずだよ。でも私は本当に、お金そのもののエネルギーなんだ。今、不安でいっぱいのあなたを助けたいと思ってる。」

「なんで僕が不安ってわかるの?」

「不安ってね、とても強いエネルギーとして伝わってくるんだ。特に、今日みたいな『どうしてうまくいかないんだろう』とか、『これからどうしよう』っていう感情は、とても強く響くの。あなたの気持ちは、私にちゃんと届いているんだよ。お金はね、ただの物や数字じゃなくて、あなたの気持ちや行動にも影響を与えるエネルギーなんだよ。だから、不安が大きいときほど、私はあなたに声を届けたくなるんだ。」

「エネルギーっていっても手元にないんだよ、お金が。来月の支払いができないんだよ。」

「その気持ち、とても重いよね。お金がないっていう事実が、不安をさらに大きくしているんだと思う。でも、本当に『ない』わけじゃない。お金はただの物質じゃなくて、流れるエネルギーなの。今目の前に見えなくても、そのエネルギーは確かに存在している。そして、また巡ってくるんだよ。」

「巡ってくる…?でもどうすれば…。」

「まずは、その『不安』という気持ちが何を教えようとしているのか、一緒に見つめてみようよ。不安は、あなたが本当に必要なものや、大切にしたいものを教えてくれるサインなんだよ。」

「サイン?」

「そう。不安はね、ただの嫌な感情じゃなくて、あなたに『ここを見て!』って教えてくれる道標なんだ。たとえば、『来月の支払いが心配だ』っていう不安が、何を示しているのか考えてみてほしい。それが次の行動へのヒントになるから。」

「不安を見る。じゃあそこに置いたクレジットカードの請求書もサインってこと?」

「その通り。請求書は、あなたに何かを教えようとしているサインだよ。たとえば、『この支払いをどうやって乗り越える?』とか、『どうしたら次はもっと余裕を持てる?』というヒントを与えてくれているのかもしれない。不安なものに向き合うのは勇気がいるけど、そこに目を向けると、信頼に変わる道が見えてくるんだ。その請求書を見たとき、あなたの中で一番強く浮かんだ気持ちは何だった?」

「自分の元からなくなって欲しいと思ったかな…!」

「そう思うよね。その気持ち、とても自然なことだよ。でも、不安をただ追い払おうとするんじゃなくて、『どうしたらこの不安を手放して、もっと安心できるんだろう?』って問いかけてみて。そこに次の行動のヒントが隠れているかもしれないよ。」

「不安を手放すか…。そうできたらすごく楽になるかな。」

「そうだね、不安を手放せたら、きっとすごく楽になると思う。

でもね、無理に手放そうとすると逆に強くなっちゃうことがあるから。まずはその不安を見つめて、『自分にとって何を教えようとしているんだろう?』って問いかけてみるのが第一歩だよ。」

しばらくの間、頭の中で考えを巡らせた。そして静かに、口を開いた。

「お金がないこと。来月の支払いするお金が足りないこと。仕事が受注できなかったこと。彼女との関係がずれてきていること。全て不安だな…」

「それだけたくさんのことが重なっていたら、不安にならないほうが難しいよね。

お金が足りないこと、仕事がうまくいかなかったこと、彼女との関係のずれ…。どれも簡単には解決できそうにないように見えるけど、それぞれが少しずつ違う『サイン』を含んでいると思うんだ。」

「違うサイン……。」

「たとえばね。

  • お金が足りないこと: 今、どんなエネルギーを流せばお金を引き寄せられるだろう?
  • 仕事が受注できなかったこと: これはタイミングなのか、それとも新しい方法を考える必要があるのか?
  • 彼女との関係のずれ: 何か大切なことを見逃していないかな?それとも、自分自身が少し変わる必要があるのか?

一つひとつを全部すぐに解決するのは難しいかもしれない。でも、どれか一つだけでも向き合ってみると、少しだけ楽になることもあるよ。」

すると自然に彼女のことがふと頭に浮かんだ。ふわっと彼女の香水の香りがする。付き合い始めに感じたあの懐かしく優しい感じが全身をつつむ感じがした。

その瞬間、スマホの通知が響いた。

驚いて画面を見ると、そこには彼女からの着信が表示されていた。