お金さんとの不思議な出会い:最終話

お金さんとの不思議な出会い:最終話

信頼と感謝が紡ぐ未来

「もしもし、ねえねえ聞いてよー!」

珍しく彼女が興奮気味に話し始めた。捲し立てるような話し方は彼女の癖だ。だが今日はちょっと様子が違う。

「嬉しいニュースがあるの!」

「お、いいね。何があったの?」

「秋から進めてたプロジェクトあったでしょ。あの、よく話してるむかつく上司とやるって言ってたやつ。あれがさ、実はすごく評価されてね!」

「すごいじゃん!おめでとう!頑張ってたもんね。」

「うん、あの上司と進めるのはかなり大変だったんだけどね…。あなたが毎晩話を聞いてくれたおかげで、どれだけ心が軽くなったか。本当に感謝してるんだ。」

ふいに感謝の言葉を口にする彼女に、少し驚いた。普段は素直に感謝を口にすることが少ない彼女だから、その一言が心に響いた。

「そんなことないよ。本当に頑張ってたの、知ってるからさ。」

「それでさー…」

彼女は、勿体ぶるように少し間を取った。

「臨時ボーナスが出ることになったんだ!ちょーラッキーでしょ!」

「マジで?よかったね!頑張った甲斐があったね。」

自然と彼女を祝福する言葉が口をついて出た。普段なら「いいなぁ」と少し羨ましく思うところだが、今日はそんな気持ちはまったく湧いてこなかった。

「それでね、この間言ってたオイルヒーター壊れたって言ってたよね。あれあたしが買ってあげるよ!」

「え、いいよ。てかもう買っちゃったしさ。」

「そうなの?じゃあそのお金、あたしに払わせてよ!」

「いいよ、いいよ。せっかくなんだから自分のご褒美に何か使いなよ。」

喉から手が出るほど嬉しい申し出だったが、思わず断ってしまう自分がいた。

すると彼女が。

「あれさ、壊れたやつ、前にあなたが買ってくれたでしょ。エアコンが苦手な私のために、初めてのボーナスで買ってくれたよね。本当はすごく嬉しかったんだ。でもあの時、ちゃんとありがとうって言えなかったから。だからいつか何かお返ししたいって思ってたの。」

彼女の声は穏やかで、どこか優しい温もりを感じさせた。

「しかも、今回は毎晩愚痴も聞いてもらったし…この評価って、あなたのものでもあるんだよ。」

そこまで言われたら、もう断る理由なんてなかった。

「実はさ、決まるはずだった仕事が一つ流れちゃって…。」

「わかってたよ、まだ仕事うまく行ってないんでしょ。最近いつも電話で私の話ばっかりだったから…あなたが大変なときに話聞いてあげられなくてごめんね…。仕事が軌道に乗るまでは、私もできるだけ応援するから…。」

彼女の言葉を聞きながら、嬉しさと恥ずかしさが胸の奥で交差する。涙が自然と湧き出てきた。

「ありがとう。助かるよ。」

必死で彼女に悟られないようしながら、心の底から出てきた言葉だった。

その後、まるで付き合い始めた頃に戻ったように会話が弾み、気づけば時計の針は夜10時20分を指していた。お互い明日も仕事なので、電話を切ることにした。

久しぶりに心地よい会話を終えたあと、机の上の請求書を手に取り、しばらくじっと眺める。

「サインか…これも一歩ずつ片付けていこうかな。」

自然と口をついて出たその言葉に、自分でも少し驚いた。

これまではただの不安でしかなかった請求書が、今は少し違って見える。何かを教えようとしている気がする…そんな風に思える自分が、少し不思議だった。

心の中に少しだけ温かいものが広がり軽くなった。

その時だった。

“カリン”

鈴のように澄んだ音色が、静かな部屋に響いた。初めて聞く音。スマホの通知音のようだが、普段はマナーモードにしているはずなのに音が鳴るなんておかしい。

不思議に思いスマホを手に取ると、画面に22:22の表示とともに通知が浮かび上がっていた。

「お金さん:1つ不安と向き合えたんだね。おめでとう!」

思わず口から出た言葉に、自分でも驚いた。

「ありがとう……」

その一言が、静かな部屋に優しく溶け込んでいった。

つづく