お金さんとの不思議な出会い:最終話
- 2025.01.15
- Reflect お金さんとの不思議な出会い

信頼と感謝が紡ぐ未来
「もしもし、ねえねえ聞いてよー!」
珍しく彼女が興奮気味に話し始めた。捲し立てるような話し方は彼女の癖だ。だが今日はちょっと様子が違う。
「嬉しいニュースがあるの!」
「お、いいね。何があったの?」
「秋から進めてたプロジェクトあったでしょ。あの、よく話してるむかつく上司とやるって言ってたやつ。あれがさ、実はすごく評価されてね!」
「すごいじゃん!おめでとう!頑張ってたもんね。」
「うん、あの上司と進めるのはかなり大変だったんだけどね…。あなたが毎晩話を聞いてくれたおかげで、どれだけ心が軽くなったか。本当に感謝してるんだ。」
ふいに感謝の言葉を口にする彼女に、少し驚いた。普段は素直に感謝を口にすることが少ない彼女だから、その一言が心に響いた。
「そんなことないよ。本当に頑張ってたの、知ってるからさ。」
「それでさー…」
彼女は、勿体ぶるように少し間を取った。
「臨時ボーナスが出ることになったんだ!ちょーラッキーでしょ!」
「マジで?よかったね!頑張った甲斐があったね。」
自然と彼女を祝福する言葉が口をついて出た。普段なら「いいなぁ」と少し羨ましく思うところだが、今日はそんな気持ちはまったく湧いてこなかった。
「それでね、この間言ってたオイルヒーター壊れたって言ってたよね。あれあたしが買ってあげるよ!」
「え、いいよ。てかもう買っちゃったしさ。」
「そうなの?じゃあそのお金、あたしに払わせてよ!」
「いいよ、いいよ。せっかくなんだから自分のご褒美に何か使いなよ。」
喉から手が出るほど嬉しい申し出だったが、思わず断ってしまう自分がいた。
すると彼女が。
「あれさ、壊れたやつ、前にあなたが買ってくれたでしょ。エアコンが苦手な私のために、初めてのボーナスで買ってくれたよね。本当はすごく嬉しかったんだ。でもあの時、ちゃんとありがとうって言えなかったから。だからいつか何かお返ししたいって思ってたの。」
彼女の声は穏やかで、どこか優しい温もりを感じさせた。
「しかも、今回は毎晩愚痴も聞いてもらったし…この評価って、あなたのものでもあるんだよ。」
そこまで言われたら、もう断る理由なんてなかった。
「実はさ、決まるはずだった仕事が一つ流れちゃって…。」
「わかってたよ、まだ仕事うまく行ってないんでしょ。最近いつも電話で私の話ばっかりだったから…あなたが大変なときに話聞いてあげられなくてごめんね…。仕事が軌道に乗るまでは、私もできるだけ応援するから…。」
彼女の言葉を聞きながら、嬉しさと恥ずかしさが胸の奥で交差する。涙が自然と湧き出てきた。
「ありがとう。助かるよ。」
必死で彼女に悟られないようしながら、心の底から出てきた言葉だった。
その後、まるで付き合い始めた頃に戻ったように会話が弾み、気づけば時計の針は夜10時20分を指していた。お互い明日も仕事なので、電話を切ることにした。
久しぶりに心地よい会話を終えたあと、机の上の請求書を手に取り、しばらくじっと眺める。
「サインか…これも一歩ずつ片付けていこうかな。」
自然と口をついて出たその言葉に、自分でも少し驚いた。
これまではただの不安でしかなかった請求書が、今は少し違って見える。何かを教えようとしている気がする…そんな風に思える自分が、少し不思議だった。
心の中に少しだけ温かいものが広がり軽くなった。
その時だった。
“カリン”
鈴のように澄んだ音色が、静かな部屋に響いた。初めて聞く音。スマホの通知音のようだが、普段はマナーモードにしているはずなのに音が鳴るなんておかしい。
不思議に思いスマホを手に取ると、画面に22:22の表示とともに通知が浮かび上がっていた。
「お金さん:1つ不安と向き合えたんだね。おめでとう!」
思わず口から出た言葉に、自分でも驚いた。
「ありがとう……」
その一言が、静かな部屋に優しく溶け込んでいった。
つづく
-
前の記事
お金さんとの不思議な出会い:第3話 2025.01.15
-
次の記事
不安の正体を見つめる:第1話 2025.01.20