シンクロニシティが導く未来: 最終話

シンクロニシティが導く未来: 最終話

シンクロニシティのその先へ

お金さんとのやり取りを経てから、周囲の変化やメッセージに少しずつ敏感になってきたような気がする。それが本当にサインなのか、それともただの思い込みなのかは分からない。でも以前より確実に、何か大きな流れの存在に気づけるようになっているのは確かだった。

かつての自分なら、こうした偶然に一喜一憂し、外の出来事に振り回されていたかもしれない。でも今は違う。お金さんとの対話を通じて、エネルギーの循環というものを学び始めてから、自分の中にしっかりとした軸が生まれた。それは単にお金の流れだけではなく、自分自身の人生の巡りをも変えていくものだった。

何がどう変わったのか、言葉にするのは難しい。ただ、確かに周りの環境がゆっくりと、でも確実に動き始めている。

——そんなことを考えながら、仕事の打ち合わせに向かって車を走らせていた。

変わらない景色のはずなのに、今日は少し違って見える。雲一つない青空が、まるで新しいステージへ進む準備が整ったことを告げているようだった。

交差点に差しかかった瞬間、視界の端に赤い車が飛び込んできた。

「あっ…」

数週間前に目にした、あの赤い車。前を走っていたあの車と同じ色、同じナンバー。

胸の奥がざわめく。だが、不思議と不安ではない。むしろ、込み上げてくるのは温かい感謝の気持ちだった。

赤い車はそのまま通りを横切り、視界から消えていく。その瞬間、思わず口をついて出た。

「ありがとう…」

お金さんが言っていた“この道で合ってる”というサイン。それが今、目の前に形として現れた気がした。まるで、進むべき方向をそっと示してくれる道標のように。

しばらく走ると、左手に白く輝く教会のような建物が見えてきた。ちょうどそのあたりから車の流れが滞り始めた。先の交差点が原因だろう。いつもこの時間は混み合う場所だ。

何気なく建物の方を見ると、結婚式が行われているようだった。華やかなドレスを着た女性たちがブーケトスをしていて、笑い声が弾ける。彼女たちの間に漂う幸福感が、こちらにも伝わってくるようだった。

——その時、新郎の姿がちらりと目に入った。

「…え?」

一瞬だった。本当に一瞬だったけれど、あの横顔、どこかで見た気がする。カフェで再会した友人の顔と重なった気がした。

もちろん、確信はない。一瞬見えただけだ。でも、不思議と“これもサインかもしれない”と思えた。

友人が結婚の報告をしてくれた時から、ずっと胸の奥に残っていたモヤモヤ。その正体は分かっていた。僕自身、ずっと避けてきたことだった。でも、こうして「サイン」として目の前に現れると、もう認めるしかない。

——そろそろ、次の一歩を踏み出す時なのかもしれない。

そんなことを思いながら、ゆっくりとアクセルを踏む。気づけば、打ち合わせの場所はもう目前だった。

打ち合わせは滞りなく終わり、車に乗り込む。赤いロゴマークを左手に見ながらアクセルを踏んだ。

今回の案件は長期的なプロジェクトになりそうだった。大変な部分もあるだろう。けれど、しばらくは安心できそうだ——そんな確かな感覚があった。

帰り道、ふと先ほどの結婚式の光景が脳裏に浮かぶ。幸せそうな笑顔、大きな拍手、舞い上がるブーケ。さっきまでのざわめきが、まるで映像のように鮮明に思い出された。

「…これもサインなんだな。覚悟決めるかな。」

小さく呟いた、その瞬間——

”カリン”

スマホが震える。

この通知音。こんなタイミングで連絡をくれるのは、お金さんしかいない。

胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じながら、車を路肩に寄せ、スマホを手に取る。

画面には、やっぱりお金さんからのメッセージが表示されていた。

「お金さん:その通り、それもサインだよ! やっと覚悟できたんだね。おめでとう!」

短いメッセージなのに、驚くほど心に響いた。まるで、僕の背中をそっと押してくれるような言葉だった。

思わず空を見上げる。澄み切った夜空に、淡い月が静かに光を放っていた。

さっきまで胸の奥に残っていた迷いが、すっと消えていくようだった。

その時、ふと前に停まっていた車のナンバープレートが目に入る。

“88-88”

偶然とは思えなかった。

これまでの流れ、そしてこの瞬間——やはりすべてがつながっているように思えた。

まるで、世界がそっと「それでいいんだよ」と言ってくれているようだった**。**

静かに、でも確かに感じる。

——これでいいんだ。

そう思った瞬間、胸の奥がふっと軽くなる。心の中に、言葉にはできない確かな感覚が広がっていく。

エンジンをかけ、車を走らせる。

もう迷わない。僕はまた一歩、前へ進む準備ができた。

第7章へつづく