感謝が生む循環: 第3話

感謝が生む循環: 第3話

心のコップを満たす脳内物質の秘密

お金さんからのメッセージをもう一度見返しながら、その疑問が頭をよぎった。「感謝のお水」とは、一体何を指しているのだろう?その水がどんなものかをもっと知りたくなり、自然と指が動いていた。

「お金さん、さっきの心のコップに感謝を注ぐって話だけど、その感謝のお水って、具体的にはどういうものなの?」

送信してすぐに返ってきたお金さんからの返信は、少し驚きつつも納得できる内容だった。

「心のコップに注がれる『水』は、満たされた気持ちやエネルギーの象徴だよ。安心感、満足感、感謝の気持ちなんかがその『水』にあたるんだ。でもね、水の種類にもいくつかあって、ここが大事なポイントなんだ。」

「水の種類?」

「そう、種類はいくつかあるんだけど代表的なのはドーパミン・セロトニン・オキシトシンの3種類がある。」

「それって脳内物質って言われてるやつだよね?」

「そうそう!その通りだよ。心のコップの『水』は、脳内物質の働きと深く関係しているんだよ。たとえば、こんな感じかな。」

お金さんの言葉に耳を傾けると、自分の行動や気持ちがどれだけ無意識に影響されていたのか、ふと気づかされる。

「ドーパミンは『速い水』のようなものだね。瞬間的な満足感や快感を与えてくれる。たとえば、買い物したときや甘いものを食べたときに感じる『わー!』っていう高揚感がこれにあたるよ。でも、この水はすぐに蒸発してしまうから、心を満たし続けるのは難しいんだ。」

確かに、と小さく頷いた。買い物したときの一瞬の高揚感、その後に続く虚しさは、自分の中で何度も繰り返されてきた感覚だった。

「セロトニンは『安定した水』。じんわりと心を満たしてくれる。感謝や安心感、穏やかな気持ちを感じたときに分泌される物質で、これが本当に心のコップを満たしてくれるんだ。」

お金さんの話に耳を傾けながら、心が少しずつ落ち着いていくのを感じた。穏やかな感謝の気持ちが心を包み込むようなイメージが浮かぶ。

「オキシトシンは『つながりの水』だよ。家族や大切な人との絆や信頼感を深めてくれる物質なんだ。この水があると、心に深い安心感が広がって、満たされた気分を長く感じられるよ。」

彼女と過ごしている、あの穏やかな時間と安心感が心に温かく広がる。

「なるほど……じゃあ、僕が最近『買い物してもすぐに虚しくなる』って感じてたのは、ドーパミンばかりで心のコップを満たそうとしてたからかもしれないってこと?」

「その可能性は高いね。ドーパミンは、決して悪いものじゃないんだよ。達成感や喜びを感じるために必要なものだからね。でも、それだけに頼ってしまうと、心のコップはすぐに空っぽになっちゃうんだ。」

「確かに、買い物したときの『わー!やった!』って感じはすごく短い。その後すぐに『次は何を買おうかな?』って考えちゃうんだ。」

「それはドーパミンの特性そのものだね。一方で、セロトニンやオキシトシンのような水を注げば、心のコップはじんわりだけど確実に満たされていくし、穴も少しずつ塞がっていくんだ。」

お金さんの言葉が、まるで心の奥にそっと触れるようだった。自分の中の何かが少しずつ変わり始めている――そんな感覚が芽生えてきた。

「じゃあ、セロトニンやオキシトシンで心を満たすには、どうすればいいの?」

「セロトニンやオキシトシンで心を満たすには、日常の中で感謝やつながりを意識する行動を取り入れることが大切だよ。」

セロトニンを増やす方法(感謝)

  • 小さな感謝を見つける 「今日もご飯が食べられた」「天気が良くて気持ちいい」といった日常の中の小さな幸せに目を向けてみる。
  • 感謝を言葉にする 家族や友達に「ありがとう」を直接伝えると、セロトニンが増えて自分も穏やかな気持ちになる。
  • 散歩やリズム運動を取り入れる 規則的なリズム運動は心を安定させ、セロトニンの分泌を促す。たとえば、ゆっくりしたペースでの散歩や深呼吸が効果的。

オキシトシンを増やす方法(つながり)

  • 大切な人と時間を共有する 彼女や家族と一緒に過ごす時間を大切にするだけで、オキシトシンが増えるよ。たとえば、一緒にご飯を食べたり、何気ない会話をするだけでもいい。
  • スキンシップや親密な行動 手を繋ぐ、肩を叩く、ハグするといった行動はオキシトシンの分泌を促してくれる。
  • 感謝を相手に伝える オキシトシンは「絆を深める感謝」とセットになっているから、感謝の気持ちを素直に伝えることが効果的。

「セロトニンで心を穏やかに満たし、オキシトシンで人とのつながりから深い安心感を得る。この2つを意識していくと、心のコップの穴が少しずつ塞がれていくし、水もじっくり溜まっていくようになるよ。」

「そうか!でも、そうやって心のコップを満たしていくと、どんな変化が出てくるんだろう?」

「セロトニンやオキシトシンを意識的に増やしていくと、心のコップに少しずつ変化が起きてくるよ。その変化はあなたの内側だけじゃなく、周りにも良い影響を広げていくんだ。」

具体的な変化の例

  1. 不安や焦りが減る セロトニンが増えることで、心が安定し、「今あるもので十分だ」と感じられるようになる。結果として、不安や焦りが減り、心が軽くなる。
  2. 大切な人との絆が深まる オキシトシンが増えることで、家族やパートナーとの時間がより幸福感に満ちたものになる。お互いの信頼感も自然と強まる。
  3. 散財が減り、満足感が持続する ドーパミンに頼らない生活が身についてくると、一時的な快感よりも、じんわりとした満足感を優先できるようになる。
  4. 感謝が習慣になり、好循環が生まれる 感謝を意識する行動が増えると、周りの出来事や人々との関係がより良くなり、さらに感謝が湧いてくる。この循環が心の豊かさを作る鍵になる。

「この変化が積み重なると、『心がしっかり満たされている』という実感が生まれるようになるよ。それがまた安心感や豊かさに繋がって、良い循環を作っていけるんだ。」

「そうなんだ!なんとなくイメージできてきたよ。でも、何か具体的に始めてみたいけど、何をしたらいいかまだわからないなぁ。」

「その気持ちが素晴らしい気づきの一歩だよ!そうしたらまずは、今あるものに感謝してみるといいよ。心のコップを満たし始めるのに、とても効果的な方法だからね。

コツとしては、できるだけシンプルなことから始めるのがおすすめだよ。たとえば:

  • 『今日も元気に過ごせたことに感謝』
  • 『暖かいご飯が食べられることに感謝』
  • 『彼女がそばにいてくれることに感謝』

感謝は大きなことじゃなくていいんだ。日常の小さなことに目を向けてみるだけで十分。それが少しずつ積み重なって、セロトニンが増えていく感覚を、きっと実感できるはずだよ。」

それを聞いて心が少し軽くなった気がする。感謝の気持ちがじんわりと広がり、温かさに包まれるようだった。

お金さんとのやり取りを通じて、心の奥底で少しずつ何かが変わっていくのを感じた。この変化がいつか自分だけでなく、大切な人たちとの関係にも良い影響を与えていく。感謝を通じて循環するエネルギーは、きっと未来をより豊かで温かなものへと導いてくれる。そんな希望が、心の中にそっと灯るのを感じた。

最終話「穏やかに満ちる心、未来への扉」につづく