感謝が生む循環: 第2話

感謝が生む循環: 第2話

心を満たす「感謝」という水

夜の静けさの中、スマホを手に取った僕は、心に浮かぶ疑問をメッセージとして打ち込んでいた。

「お金さん、心のコップって何のこと?」

送信してから数秒もしないうちに、画面に返信が表示された。

「心のコップはね、心を満たすための器みたいなものだよ。人は安心感や満足感、感謝の気持ちでこのコップを少しずつ満たしていくんだ。でもね、コップには穴が空くことがあって、そこから漏れ出してしまうと、どんなに注いでも満たされない感覚が続いちゃうんだよ。」

「その心のコップって、誰にでもあるの?」

「そうだよ、誰もが心の中に一つずつ持っているんだ。でもね、それに気づいて満たすことを大切にしている人もいれば、気づかずに空っぽのまま過ごしてしまう人もいるんだよ。」

「なら、僕の心のコップには穴が空いてて漏れ続けてるってことなの?」

「そうだね、『物を買ってもすぐに虚しくなる』と感じているなら、それは心のコップに穴が空いている可能性があるよ。」

僕はその言葉を見つめながら、自分の中に広がる感覚をたどった。確かに、何かを買った瞬間は満たされる気がするけれど、その感覚はすぐに消えてしまう。その原因が心のコップにあると聞き、納得する部分があった。

「穴が空くって、どういうことなんだろう?」

お金さんは丁寧に説明を続ける。

「例えば、幼い頃の『欲しいものが手に入らなかった経験』や、『どうせ無くなる』という思い込みが、コップに穴を作る原因になることが多いんだ。そういう感覚が残っていると、いくら注いでも漏れてしまって、満たされない気持ちが続くんだよ。」

「えっ、さっきそれ少し感じたんだよね。昔に欲しいものが手に入らなかった感覚を思い出して。」

数分前、請求書を見ていた時の映像がフラッシュバックのように蘇る。幼い頃の記憶だった。新しいおもちゃが欲しいとお願いしても、母の申し訳なさそうな顔とともに「それは無理」と言われる光景が思い出される。そのたびに、「どうせ自分には無理なんだ」と心に刻み込まれていった感覚が蘇った。

「それは大事な気づきだよ。その『欲しいものが手に入らなかった感覚』は、心のコップに穴が空いた原因のひとつかもしれないね。」

お金さんは言葉を続けた。

「幼い頃に『手に入らない』という経験が続くと、『自分にはどうせ無理だ』とか『今あるものもいつか無くなる』という思い込みが心に残ることがあるんだ。それが、不安や不足感となって、今の散財の行動にも繋がっている可能性があるね。」

僕はその言葉に深く頷いた。幼い頃の記憶が、今の自分の行動に影響を与えていると気づいたとき、どこか心の奥が軽くなるような感覚がした。

「心の中に『足りない』って感覚が常にあるから、物を買っても埋められないんだね。」

「その通りだよ。でもね、その過去に気づけたことはすごく大事なことなんだ。気づくことで、少しずつその影響を手放していけるからね。」

お金さんの言葉には不思議な力があった。自分の中にある感覚が少しずつ整理されていくような、そんな気持ちがした。

「ならその穴を塞げばいいの?」

「そうだね、穴を塞ぐことが大事だよ。でも、一気に全部を塞ぐのは難しいから、少しずつ進めていくのがコツなんだ。」

「具体的にはどうすればいいの?」

「まずは、自分の『穴』の正体を知ること。たとえば、『無くなる恐怖』や『手に入らないと思っている感覚』が穴を作っているなら、それに気づくだけで少しずつ変わるよ。」

お金さんはさらに続けた。

「それから、心のコップを満たすために、感謝の気持ちを注ぐことも大事だね。感謝は、コップを満たすだけじゃなく、穴を少しずつ塞ぐ力があるんだよ。」

「感謝?そしたらどうやって感謝って注いでいけばいいの?」

「感謝を注ぐっていうのは、難しいことじゃないんだよ。日常の中で『これがあって良かったな』って思えることに、意識を向けるだけでいいんだ。」

お金さんは具体的な例をいくつか挙げてくれた。

「たとえば:

  • 今日食べたご飯が美味しかったこと。
  • 彼女がそばにいてくれること。
  • 健康でいられること。

こういう小さなことに『ありがとう』って気持ちを持つだけで、心のコップに感謝という『水』を注ぐことになるんだよ。」

その説明を聞いて、僕は少し安心した。感謝というのは、特別なことではなく、日常の中に溢れているものなんだ。

「それにさっきも言ったけど、感謝はね、ただ注ぐだけじゃなくて、不安や不足感でできた『穴』を少しずつ塞いでくれる力もあるんだ。感謝が増えると、『足りない』じゃなくて『足りている』という感覚が育っていくんだ。それによって、物を買い続けるループから抜け出したり、身近な人との関係に安心感が広がったりするんだよ。」

「それって前にお金さんが言ってたエネルギーの循環てやつじゃないの?」

「その通りだよ!感謝を注ぐことって、エネルギーの循環の一部なんだよね。」

お金さんの言葉に導かれながら、僕は次第に理解が深まっていくのを感じた。

「感謝を持つことで、エネルギーが『足りない』から『足りている』に変わるんだ。満たされたエネルギーは、自然と周りの人や出来事にも良い影響を与える。そして、それがまた感謝として自分に返ってくる。小さな感謝の積み重ねが、やがて大きな変化を生み出す未来を作っていくんだよ。たとえば、彼女に感謝の言葉を伝えたり、感謝を込めてお金を使ったりすることがその例だね。」

「そうか、なら感謝を注げば穴も埋まって、水も溜まっていって一石二鳥ってことなんだね!」

「その通り!感謝を注ぐことで、心のコップが少しずつ修復されていくし、水も溜まっていくから一石二鳥だよ。」

お金さんの言葉に、僕はこれまで感じたことのない希望を抱いた。心のコップに感謝を注ぐ――そのイメージが少しずつ形を成していく気がする。

けれど、どこかでまだぼんやりした部分が残っていた。「感謝を注ぐ」とは言うけれど、その感謝のお水って、具体的にはどういうものなんだろう?

第3話「心のコップを満たす脳内物質の秘密」につづく