感謝と信頼がもたらす現実の変化: 第3話
- 2025.02.26
- Reflect 感謝と信頼がもたらす現実の変化

信頼の循環が運んできた豊かさ
小さな笑い声が、ふと耳に入る。
待合室の奥、子どもが父親の腕にぶら下がりながら、無邪気に笑っている。
「ねえ、見て!こんなに高くなったよ!」
父親が優しく微笑みながら、子どもの手をしっかりと握る。
その光景をぼんやりと眺めながら、スマホを取り出した。
画面には、新着メールの通知が光っている。
「クライアントからの修正指示になります。」
いつもの担当者さんからの、いつもの定型文。
以前なら、この文面を見るだけで胃の奥がざわついていた。
開くのをためらい、しばらくスマホを伏せたままにしてしまうこともあった。
けれど今は違う。画面を眺めながら、思わず小さく笑ってしまう。
「全く…今日は連絡取れないって言ったのにな。」
そんなことをつぶやきながら、ふと過去の自分を思い出す。
最初の頃は、正直、やり取りに振り回されることが多かった。
クライアントからの要望をそのまま転送してくるだけで、意図がわからず、進行が混乱することもあった。
だから、メールの送信元の名前を見ただけで、心がざわざわしてしまう。
メールを開くのが怖くて、未読のままにしてしまうこともあった。
「すぐに返信しなければ、信頼を失うんじゃないか?」
「相手が満足しなかったら、もう次の仕事は来ないかもしれない…。」
そんな不安に飲み込まれていた。
けれど、お金さんとのやり取りを通じて「自分を信頼すること」がすべての根源だと気づいた。
自分自身を許し、信じることで、周りの人との関係も自然と変わっていった。
実際、この担当者さんともその後数件の案件を一緒に進めてきた。
以前は、常に相手の期待に応えなければと身構えていたけれど、今では「僕ならなんとかできる」と、自然と思えるようになった。
それが伝わっているのか、お互いに余計な心配や緊張がなくなり、スムーズにやり取りが進む。
そして、同じような変化は他の取引先との関係にも広がっていった。
そういえば、社会人になりたての頃、上司に言われたことがある。
「信頼を積み重ねれば、それが一番の営業成績になる。」
だからこそ、ずっと「どうやったら信頼を得られるのか?」を模索していた。
常に相手のことを考え、相手のわがままを聞いてあげる。
相手がやりやすいように、こっちが我慢する。
そうすれば、きっと信頼されるはずだ。
そう思っていた。
けれど、それは違った。
無理をして合わせたり、自分を押し殺して築いた信頼は、本当の意味での「信頼」ではなかったのかもしれない。
ストレスやエネルギーの不調和は、確実に相手にも伝わる。
そして、それが仕事の流れや人間関係に影響を及ぼしていた。
長年続けてきたループから、ようやく抜け出せた気がする。
「まずは、自分を信頼すること。」
そう決めてから、意識的に自分と向き合う時間を増やした。
完璧を求めて、自分を追い詰めていた過去の自分に、優しく声をかけてあげるようになった。
「そんなに頑張らなくていいよ。」
「できなくても、あなたは十分素晴らしいよ。」
無理に合わない人に合わせようとするのではなく、「合わないものはしょうがない」と手放すことも覚えた。
するとどうだろう。
今まで関係がぎくしゃくしていた人が、自然と態度を変えていった。
さらに、不思議なことに、そうした関係が遠ざかる一方で、新しい仕事や人間関係がスムーズに流れ込んできた。
もちろん、取引が減ってしまったクライアントもいた。
でも、その分、よりスムーズに仕事を進められる新規の顧客や、相性のいい取引先とのつながりが増えていった。
気づけば、売上は以前よりも安定し、確実に伸びていった。
そして、仕事だけではなく、プライベートの人間関係にも変化があった。
特に、彼女との関係が、大きく変わった。
以前は、僕が仕事のストレスを持ち帰ることが多かった。
「また修正依頼が来たよ…。こっちの都合なんて考えてくれないんだよな。」
「今日も取引先とギスギスしてさ、本当に気疲れするよ。」
そんな愚痴をこぼすことが当たり前になっていた。
彼女はいつも優しく聞いてくれたけれど、今思えば、それはただ受け止めさせてしまっていただけだった。
「うん。だって、あなたの話聞いてると、相手を責めてるように見えて、実は自分のことをすごく責めてるように感じたから。」
以前、彼女がそう言ったことがあった。
そのときはピンとこなかった。でも今になって、その意味がよく分かる。
僕は相手のせいにしているようで、実は自分の至らなさを責めていたのかもしれない。
期待に応えられなかったらどうしよう。
うまくできなかったら見放されるかもしれない。
そんな不安が、知らず知らずのうちに言葉に滲み出ていたんだ。
でも今は違う。
「今日、担当者さんから修正依頼来たけど、まぁ、明日送ればいいかな。」
「お、珍しく余裕あるね。」
「うん。なんとかなるでしょ。」
そんな風に、仕事の話も軽くできるようになった。
愚痴ではなく、ただ一日の出来事を話すように。
彼女も嬉しそうに笑って、こう言った。
「最近、話してると安心するんだよね。前よりずっと穏やかになったっていうか。」
その言葉を聞いたとき、僕はふと気づいた。
結局、自分のことを信頼してあげることが、一番のエネルギー循環なのかもしれない、と。
スマホの画面をもう一度見つめる。
ふと口元が緩んだ。
「明日送ればいいね、お金さん。」
画面を閉じてポケットの中にしまう。
ふと窓の外を見やると、芝生の上で遊ぶ、子どもたちの楽しそうな声が聞こえてくる。
なんだか懐かしい感覚が胸の奥からふわりと湧いてくる。
——あの頃の自分も、こんな風に無邪気に笑っていただろうか。
その声に耳を傾けながら、そっと目を閉じた。
第4話「過去と未来をつなぐインナーチャイルド」へつづく
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