不安の正体を見つめる:最終話

不安の正体を見つめる:最終話

希望と循環の始まり

遠くで振動音が聞こえる。はっきりしない意識の中で、振動音だけが耳に届く。

スマホのアラーム音だ。もう起きる時間か。昨日は遅くまで起きていたが、目覚めは驚くほど良い。お腹の奥に感じていたあの重さが消え、身体全体が軽く感じられる。

あの後、さらにお金さんと一緒に不安に向き合った。それは決して楽な作業ではなかったけれど、不思議と心に余裕が生まれた。なぜか経験したことがない「不幸の手紙」という夢。銀行の前を通り過ぎた時に感じた、過去の記憶から来る不安。その両方とも、お金さんと話しているうちに、安心感や前向きな考えに変わっていった。不思議な感覚だった。

これまでは、不安から目を逸らして他の良いことや楽しいことを考えればいいと思っていた。どこかで読んだ自己啓発本のあった、「ポジティブでいること」を無理に続けていたのかもしれない。でも、そうじゃなかったんだ。

ひとつひとつ掘り下げていくと、自分が本当に望む形が見えてくる。そしてその感情に入り込むと、自分が欲しかった感情が何だったのかが初めて分かる。そんな気づきだった。

キッチンでコーヒーを淹れながら、テレビをつける。ニュースが流れ、今日は今年一番の暖かさでお出かけ日和ですとアナウンサーが笑顔で伝えている。窓の外に目をやる。太陽の光がリビングに差し込み、心をそっと照らしているようだ。窓の外で揺れる木々の葉が、不安を静かにほどいていくように感じられた。

ふと机の上に目を向けると、クレジットカードの請求書が目に入る。先月手に取ったときは全く違うものに思えたが今回は更に軽く感じた。手に取って封を切ると、その内容にゆっくり目を通し始めた。

「こんなに使ったんだな……でも、それだけ価値あるものを手に入れたってことか。」

請求書を見つめる目が、少し柔らかくなった。そこには、自分の過去の選択や努力の軌跡が刻まれているように思えた。以前のように「不安」だけが心を占めるわけではない。代わりに、「次はどうしよう」という考えが自然に湧いてくる。

そんな時、スマホの通知が鳴った。画面を開くと、昨日訪れることができなかった取引先の担当者からメールが届いている。

「あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。」

新年の決まりきった挨拶に続いて、驚きの言葉が目に飛び込んだ。

「昨年一度お断りした案件ですが、社長の一声で再開することになりました。つきましては改めてお見積もりとお打ち合わせをお願いしたいと思いますがご都合いかがでしょうか。」

画面を見つめたまま息を呑んだ。喜びと安堵が胸に広がる。そして、その感覚に混じって昨日感じた「安心感」が再び心を包み込むのが分かった。

「お金さん、ありがとう。」

思わず口をついて出た言葉。その瞬間——

“カリン”

また鈴のように澄んだ音色が、静かな部屋に響いた。

「お金さん:おめでとう!小さな不安を超えると、大きな循環が始まるよ。」

「大きな循環」——その言葉が心に静かに響く。これからどんな未来が待っているのかは分からない。でも、確かな安心感がある限り、きっと大丈夫だ。

「次に進もう。」

コーヒーの香りが心を落ち着ける中、感謝の気持ちを込めながら、メールの返信文を一文字ずつ慎重に打ち込んでいった。

第3章へ続く。