感謝と信頼がもたらす現実の変化: 第4話
- 2025.03.03
- Reflect 感謝と信頼がもたらす現実の変化

過去と未来をつなぐインナーチャイルド
「キャッチボールしようよ!」
待合室の奥から、元気な声が響く。
振り向くと、甥っ子が満面の笑みを浮かべながら走ってくる。小さな手には、大事そうに握られたグローブ。嬉しそうに跳ねるように駆け寄る姿を見て、ふと心の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
その無邪気な姿に、幼い頃の自分が重なった。
「今はできないんだよ。」
甥っ子を追ってきた父親が優しく諭す。
先ほどまで輝いていた表情が、一瞬にして曇る。
「今すぐは無理だけど、後でやろうね。」
そう伝えると、甥っ子は少し考えた後、笑顔を取り戻した。
「約束だよ!」
そう言って、また駆けていく。
その背中を見送りながら、小さく息をついた。
——昔の自分も、こんな風に素直に気持ちを表現していただろうか?
お金さんとの対話の中で、”インナーチャイルド” という言葉を知った。
「インナーチャイルドっていうのはね、“心の中にいる子どもの頃の自分”のことだよ。昔感じた喜びや悲しみ、そのまま癒されずに心の奥にしまわれている感情が形になった存在なんだ。」
その言葉を聞いたとき、思い当たることがいくつもあった。
確かに、過去の出来事や経験が、今の自分の行動や考え方に大きな影響を与えている。まるで、プログラムのように、一度書き込まれた記憶が無意識のうちに作動し、同じようなパターンを繰り返してしまう。
——もし、このプログラムを書き換えることができるとしたら?
インナーチャイルドと向き合うことで、それが可能になるのかもしれない。
そんなことを考えていると、ある記憶が鮮明によみがえってきた。
*
小学生の頃、お年玉を握りしめ、都心にある電器店へ向かった。
そのとき、なぜか普段そこまで親しくなかった友達二人と、特別な仲間のような感覚になっていた。彼らが夢中になっていたパソコン型のゲーム機に、いつの間にか自分も惹かれていた。
——これがあれば、普通のゲーム機とは違う、新しい世界が広がるかもしれない。
そんな期待を胸に、そのゲーム機を購入した。
家に帰り、箱を開ける瞬間のワクワク感は、今でも鮮明に覚えている。新しいものを開封するときの独特な高揚感。その原点は、もしかするとこの時にあったのかもしれない。
しかし、その興奮は長くは続かなかった。
夜、父親が帰宅し、ゲーム機を見つけた瞬間、表情を曇らせた。
「なんでこんなものにお年玉を使ったんだ?」
その言葉に、頭の中が真っ白になった。
——共感してもらえると思っていたのに。
驚きと戸惑いの中、「無駄遣いだったんだ」という感覚だけが残った。
それ以来、そのゲーム機はほとんど触ることなく、部屋の箪笥の上に置かれたままになった。
見るたびに、胸の奥がチクリと痛む。
——使わなかった自分が悪い。 ——お父さんの言う通り、買わなければよかった。
そんな風に思い続けていた。
お金さんが言うには、これもインナーチャイルドが癒されていない証拠だった。
*
——じゃあ、あの時の自分に、今の自分はなんて声をかけてあげる?
そう考えたとき、自然と手紙を書いていた。
「——あの時は、ゲーム機を買えて嬉しかったね。
ワクワクして、新しい扉が開かれるような気持ちだったんだよね。
あの時の選択は、間違いじゃなかったよ。
お父さんに否定されて、悲しかったよね。 でもね、その時感じた気持ちは、今の僕にちゃんとつながっているんだ。
今、僕はパソコンを使って仕事をしている。 それでお金を稼いで、生活しているんだ。
あの時、ゲーム機に惹かれた気持ちは、本物だったんだよ。
だから、これからも、自分が”本当に欲しいもの”を大事にしていい。 ワクワクする気持ちを、もっと信じてあげていいんだ。
——ありがとう。あの時、ゲームを買ってくれて。」
手紙を書き終えたとき、胸の奥にあった重たい感覚が、ふっと軽くなった気がした。
それから、買い物をする時の意識も少しずつ変わっていった。
今までは、値段を見て選ぶことが多かった。
「これは少し高いから、似たようなもので安いものを……。」
そうやって、自分の本当に欲しいものを後回しにしていた。
でも今は、自分が”価値を感じるもの”を素直に選べるようになった。
すると、不思議なことが起こり始めた。
以前なら「高いな」と感じていたものが、購入前に臨時収入が入ったり、思いがけずプレゼントされたりするようになった。
——エネルギーの流れが変わってきたんだ。
お金さんが言っていた「感謝のエネルギーが巡る」という感覚が、少しずつ腑に落ちていく。
過去の出来事は、ただの苦い思い出ではなかった。
むしろ、今の自分にとって、大切なメッセージだったのかもしれない。
あの時、タンスの上に置きっぱなしになったゲーム機は、実は今の仕事の原点だったのかもしれない。
それは、今の自分の仕事につながっていた。
あの時は怖くて手をつけられなかった「プログラミング」。
それが今では、毎日当たり前のように仕事になっている。
「過去の出来事が、未来の自分を作っていたんだ。」
お金さんは言っていた。
「過去の出来事ってね、一見ネガティブに思えることほど、大きな意味を持っているんだよ。苦しかった経験や、心に残る出来事が、実はその人の得意分野や使命につながることが多いんだ。」
それを知ったとき、過去の記憶が少しずつ違ったものに見え始めた。
辛かった経験や、ずっと心に引っかかっていた出来事も、それがあったからこそ、今の自分がいる。
それに気づいたとき、また自然と感謝の気持ちが湧いてきた。
「ありがとう。」
窓の外から、子どもたちのはしゃぐ声が聞こえる。
まるで、過去の自分が「やっと気づいてくれたね」と笑っているようだった。
第5話「感謝が巡ると、現実が動き出す」へつづく
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