信頼の循環に気づく:第3話

信頼の循環に気づく:第3話

本当の信頼への道標

スマホ画面に表示されたお金さんのメッセージを見つめながら、少しモヤモヤとした気持ちで返信を送っていた。

「自分との信頼を結ぶってどういうこと?信頼するって他人を信じることなんじゃないの?」

「そう思うよね。他人を信じることって、確かに信頼の大切な部分。でもね、本当の信頼は、自分自身との関係から始まるんだよ。」

自分自身?その言葉に疑問を感じながら、すぐに返信を打ち込んだ。

「自分自身との関係から始まる???」

「そう。自分のことを信じられなかったら、他人を本当の意味で信じるのは難しいんだ。例えば、自分の選択や感覚を信じられなかったら、相手の言葉や行動にも疑いを持ちやすくなるでしょ?」

お金さんの言葉が胸に刺さるような感覚がした。でも、それがどういうことなのか、まだしっくりきていなかった。

「よくイメージつかないんだけど、だってまずは相手の言葉とか行動を判断して信じれるか信じれないかってことじゃないの?」

「そう思うのも自然だよね。相手を信じるには、その人の言葉や行動を見て判断することが多い。でもね、その判断をしているのは“自分自身”なんだよ。もし、自分の判断や感覚に自信がなかったら、相手がどんなに誠実でも、どこかで疑ってしまうことがあるんだ。」

その言葉に、ふとした気づきが生まれる。

「えっ、そうなの?」

「例えば、相手が『任せてください』と言ったとしても、自分が『本当に大丈夫なのかな?』とか『また失敗するかも』って思ったら、その言葉を信じるのは難しくなるよね。それは、相手がどうこうじゃなくて、自分が自分の判断や感じたことに自信を持てていないからなんだ。」

画面を見つめながら、過去のやり取りが頭をよぎる。担当者さんとのメールや指示のやり取りに感じた不信感。それはもしかして、自分自身の判断を信じきれていないから?

「確かにそうかも。相手の言葉を受け取って判断してるのは、自分の考えのフィルターを通してるってことか。」

「その通りだよ!信じるかどうかを決めるのは、いつだって自分自身なんだ。だから、自分の判断や感じたことに信頼が持てていないと、相手の言葉や行動にも疑いを持ってしまいやすいんだよ。」

急に肩の力が抜けた気がした。担当者さんのことを信じられないと感じるのは、自分が決めていたことなのかもしれない。

「そうか、じゃあ今回担当者さんのことを信じれてないのは、僕が決めてるってこと。でもあんな進行でやり取りされたら信用できないよ…」

「うん、その気持ちもよくわかるよ。相手が未熟に見えたり、進行がうまくいかないと感じるとき、それを自分が『なんとかしなきゃ』と思い込むことが、信じる余裕を奪っていることもあるんだよ。」

お金さんの言葉に、ぐっとくるものがあった。

「そうだね、それは自分がなんとかって思うよ。」

「『なんとかしなきゃ』って感じるのは、責任感が強いからだと思う。でもね、その想いが強すぎると、相手に任せる余裕がなくなったり、自分を追い込んでしまうことがあるんだ。

『自分一人で完璧にしなくてもいい』って自分に許可を出せたら、相手を信じる余白が少しずつ生まれるかもしれないよ。」

その言葉にハッとした自分がいる。

「完璧にしなくていいって、でもそしたらプロジェクト上手く進行できないよ。」

「そう思うよね。でも、『完璧』っていうのは、一人で全てを背負うことだけじゃないんだ。チームや担当者さんと一緒に進めることで、全体としての『完璧』を目指すこともできるはずだよ。」

「あっ、確かに。自分で完璧にって思うことは、相手のこと信頼してないってのが前提になってるね。」

「そうだね!『完璧』を求めるあまり、相手を信頼する余裕がなくなっちゃうこともあるんだよ。少しだけでも相手を信じることで、新しい流れや循環が生まれることもあるから、そこに挑戦してみてもいいんじゃないかな?」

彼女の言葉とお金さんの言葉が重なっていく。

「もしかしてそれが彼女が言ってた、自分を責めてるってことと一緒なのかな?」

「そうだよ!相手を責めているようで、実は自分を責めている部分があるんだと思う。まずは、自分を許してあげることが、信頼の第一歩だよ。」

「なんとなく自分が完璧を求めすぎてるのは、わかってきた気がするよ。でもそれでプロジェクトは大丈夫かな?」

「もちろん大丈夫だよ。むしろ、完璧を手放すことで柔軟な対応ができるようになり、プロジェクトがスムーズに進むこともあるよ。自分に優しくなれると、自然と相手にも信頼を向けられるようになるはずだよ。少しだけ勇気を出して試してみたら。」

自分に許しを与える。それが信頼の第一歩だと気づいた瞬間、胸の奥がふっと軽くなった。

静まり返った夜の空気が、どこか新しい始まりをそっと告げているように感じる。

「少しずつ、自分を信じてみようかな。」

心の中で湧き上がったその思いに、自然と笑みがこぼれた。

翌朝、肩の力を少し抜いてプロジェクトに向き合うと、いつもと違う手応えを感じる自分がいた。小さな変化が、大きな流れを動かし始めるような感覚。そして、不思議なほどスムーズに物事が進み始める。

その変化が、この先、さらなる展開を引き寄せていくことになる——。

第4話「信頼が生む新しい流れ」へつづく。