シンクロニシティが導く未来: 第2話
- 2025.02.18
- Reflect シンクロニシティが導く未来

つながる瞬間
お腹が満たされ、ふっと気が緩むと、心地よい眠気がゆっくりと押し寄せてきた。それを振り払うように、熱いコーヒーを流し込みながらPCの画面を眺める。
「さて、そろそろ行くか…」
空になったコーヒーカップを静かにテーブルへ置き、PCをカバンにしまう。昼のピークが過ぎたせいか、店内の喧騒も落ち着いてきていた。少し前まで満席だった席も、ぽつぽつと空席が目立ち始めている。
会計を済ませ、店員に軽く会釈をすると、カフェのドアを押し開けた。外の空気は少しひんやりとしていて、気持ちが引き締まる。
深く息を吸い込みながら歩き出すと、ふと過去の記憶がよみがえった。
「あの頃も、こんな風にここを後にしたっけな……」
そんなことを思いながら、車へと足を向けた。
エンジンをかけ、目的の取引先へ向かう。ここは、アポなしでも気軽に立ち寄れる会社で、近くに来たついでに顔を出すことが多い。今日も特に深く考えることなく、自然な流れに任せるようにハンドルを切った。
運転しながら、さっきの友人との偶然の再会を思い出す。懐かしい感情が、さっきまでの曇った気持ちを少しずつ晴れやかにしていくのを感じた。
――今日は、やけに昔と今が交差する。
「…なんだか不思議な気分だ。」
そんなことをぼんやり考えながら、車を走らせる。
目的の会社に着いたのは、出発から30分ほど経った頃だった。平日の午後ということもあり、道路は少し混んでいた。
駐車場に車を停め、1階の受付へ向かう。受付に設置された内線電話を取り、目的の部署の短縮番号を入力すると、すぐに女性の明るい声が応じた。
「すみません、特にお約束はしていないのですが…」
いつものように担当者をお願いすると、今日はあいにく不在とのことだった。それどころか、他に挨拶できる人も全員席を外しているらしい。結局、何もできないまま引き返すことになった。
「こんなことなら、ちゃんとアポを取っておけばよかったな…」
わずかな後悔を抱えながら、再び駐車場へと歩く。
その時、スマホの通知音が響いた。画面を覗くと、さっき送った取引先からの返信メールだった。
『ご無沙汰しております。お元気ですか?』
そんな書き出しから始まり、また何かあればぜひ力を貸してほしいとの内容が綴られていた。
ふと、朝のニュースが脳裏をよぎる。
――〇〇区〇〇。
ここからそれほど遠くない場所だ。何かが自分をそちらへ引っ張っているような気がした。
「…ちょっと行ってみるか」
普段なら、こういう突発的な行動はしない。だが、さっきの偶然の再会や、この流れが妙に気になった。
思い切って電話をかける。
コール音が数回鳴ると、懐かしい声が受話器の向こうから響いた。
「おお!お久しぶりです!」
挨拶を交わすと、会話はすぐに弾んだ。実は今、ちょうど近くにいることを伝えると、「それならぜひ寄っていってくださいよ」と、向こうから誘いがあった。
「せっかくだし、行ってみるか。」
そう思い、1時間後に訪問する約束を取り付けた。
電話を切ると、胸の奥にじんわりとした熱が広がった。久しぶりに、少しワクワクしている自分に気づく。
約束の時間より少し早く到着し、駐車場に車を停める。会社のロゴが目に入った瞬間、思わずハッとした。
「…あれ?」
それは、今朝見た赤い車の色とまったく同じだった。
何気なく見過ごすには、あまりにも出来すぎている。もしかすると、無意識のうちに、このロゴの色が頭の片隅に残っていたのかもしれない。
10分ほど車の中で時間を潰し、深呼吸してから会社の中へ足を踏み入れた。
迎えてくれたのは、昔と変わらない明るい笑顔の担当者だった。彼は相変わらずよく喋り、よく笑う。
さっき再会した友人が退職して寂しくなったこと、会社の体制は変わらず、相変わらず案件は順調に進んでいること――そんな話を交わしながら、気づけば時間はあっという間に過ぎていた。
そして最後に、彼がふと切り出した。
「実は、これから始まる案件があってね。ちょっと相談に乗ってもらえないかな?」
思わぬ展開に驚きつつも、話を聞くと、まさに自分の得意分野だった。
こんなふうに話が進むなんて、久しぶりだ。
驚きと同時に、何か見えない流れが導いているような気がした。
会社を後にしながら、車の中で今日一日の出来事を振り返る。
「うまくいくときって、こういうもんなんだよな…」
すべてが一本の線でつながっているような感覚があった。
自宅の駐車場に車を停め、ふっと息をついた。今日は思いがけない再会と出来事が重なったせいか、いつもより心がざわついている気がする。
玄関のドアを開けると、ふわりと馴染みのある空気が流れ込んできた。
リビングへ向かい、カバンをソファの横に置くと、なんとなく一息つきたくなった。キッチンへ向かい、冷蔵庫を開ける。冷えた麦茶をグラスに注ぎ、一口飲むと、喉を通る冷たさが心地いい。
テーブルの上には、朝のままの状態で置かれた資料がある。今日の出来事を整理しようと、椅子に腰を下ろし、スマホを手に取った。
画面を開くと、通知がいくつか溜まっている。その中に、見覚えのあるアイコンが目に入った。
『お金さん:シンクロニシティに気付けるようになってきたんだね。』
「シンクロニシティ?」
どこかで聞いたことがあるような言葉だけど、意味はよく知らない。メッセージを見つめながら、今日の出来事を頭の中でなぞる。
久しぶりの再会、偶然のつながり、そして思いがけない展開——。
あれは、ただの偶然だったのか? それとも——。
スマホを握り直し、画面を見つめながら、お金さんへの返信を考え始めていた。
第3話「偶然に隠れたサインを見つける」につづく
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