シンクロニシティが導く未来: 第1話

シンクロニシティが導く未来: 第1話

偶然が導く必然の出会い

ふと時計に目をやると、”11:11″

「もうすぐお昼か…」

最近、仕事は落ち着き気味だ。一時はお金さんのアドバイスのおかげで、エネルギーの循環を意識し、仕事も生活全般も驚くほどスムーズに流れていた。まるで風に乗るように、物事が次々と運ばれていく感覚だった。

だが、ここ最近はその勢いが少しずつ落ち着いてきている。忙しさが和らぐにつれ、心の中にぽっかりと空いたような感覚が生まれた。前のような切羽詰まった不安に追われることはもうない。でも、「このままでいいのか?」 という感覚が、じわじわと胸の奥で広がっていく。

スマホを手に取り、SNSを開く。画面には友人たちの楽しそうな投稿が並んでいた。かつては羨ましさを感じることもあったが、今はそこまでではない。ただ、自分の今の流れと彼らの動きのギャップ を感じてしまう。室内の空気が少し重たく感じた。何かが停滞しているような、そんな感覚。

「たまには外でランチしようかな…」

気分を変えたくなり、クローゼットを開ける。軽く着替えながら、少しでも気持ちが軽くなればと思う。

カバンにPCとタブレットを詰め込みながら、ふと考える。

「午後はそのままお客さんのところに顔を出すか…」

今日は何となく、そのまま足を向けてみたくなった。何かを変えたくて、そんな気持ちが背中を押していた。

車のエンジンをかけると、軽い振動が伝わり、ダッシュボードの時計がゆるやかに時を刻む。窓の外では雲がゆっくりと流れ、乾いた風が車内に入り込む。ほどなくして、スピーカーからラジオニュースが流れ出した。

「午前10時頃、〇〇区〇〇近辺の路上で大型トラックの事故が発生しました。」

なんとなく聞き流してはいたが、〇〇区〇〇という地名に引っかかった。そこは数年前、以前取引していた会社の近くだ。最近はめっきり足を運んでいない。別に何か理由があるわけではないが、妙に気になった。

しばらく車を走らせながら、流れる景色をぼんやりと眺めていた。

目的地まではもう少し。そんなことを考えながらハンドルを握っていると、ふと前方の車に視線が止まった。鮮やかな赤色がひときわ目を引く。

何気なくナンバープレートに目をやると、思わず息をのんだ。

“22-22”

ただの偶然かもしれない。それでも、この色といい、数字といい、何か引っかかるものがある。

そういえば、最近やけにゾロ目を目にする。気のせいかもしれないが、偶然にしては多すぎる。

頭の片隅に引っかかりながらも、そのまま車を走らせる。けれど、ここまで続くと無視するのも難しい。

「…なんだろう、この感じ。」

ぼんやりとした違和感が、じわじわと濃くなっていくような気がした。

そんなことを考えていると、赤い車が左にウィンカーを出し、昔よく彼女と通ったカフェの方向へ曲がっていった。そのカフェのことを久しぶりに思い出したが、僕はそのまま目的の店を目指す。

目的地に到着し、車を駐車場に滑り込ませる。エンジンを切ると、ほっと一息つけた気がした。ドアを開け、外の空気を感じながら店の前へと歩き出す。

ふと顔を上げると、「臨時休業」の張り紙が目に飛び込んできた。

「マジか…」

せっかくここまで来たのに、と落胆しつつも、お腹はすでに限界だ。考える気力もなく、さっき思い出したカフェへ向かうことにした。

車をUターンさせると、タイヤがアスファルトを擦る音がわずかに響く。

しばらく走り、目的のカフェがある通りへ入る。視界の先に見慣れた店の看板が現れ、なんとなく気持ちが落ちついてくる。

信号待ちの間、ふと店の方へ目を向けると、ちょうど扉が開き、中から人が出てくるのが見えた。営業しているようだ。ほっと胸をなでおろす。

店の前に車を停めると、歩道を行き交う人々の姿が目に入る。車を降り、足早に店へ向かう。

店へ入ろうとした瞬間、すれ違った人と肩が軽くぶつかった。

「すみません…」

と同時に、

「あっ…!」

「久しぶり!」

顔を上げると、そこには懐かしい顔があった。

一瞬で昔の記憶がよみがえる。かつて取引先の担当だった彼とは、仕事を超えて仲良くなり、一時期はよく飲みに行ったりしていた。けれど、彼が会社を辞めたのを境に、取引も自然と減り、気づけば連絡を取ることもなくなっていた。

「久しぶり!元気にしてた?」

短い会話の中で、彼が来月結婚することを知った。

「マジか!おめでとう!」思わず声が弾む。

彼は少し照れくさそうに笑い、「ありがとう!落ち着いたらまた連絡するよ」と言いながら時計をチラリと見た。

「じゃ、またな!」

そう言い残し、足早に去っていく。その背中を見送りながら、懐かしさだけがじんわりと胸に広がっていった。

カフェに足を踏み入れると、ふわりと香るコーヒーの香ばしさが鼻をくすぐる。低く流れるジャズが、落ち着いた空気をさらに心地よくしていた。

カウンター越しに店員と軽く挨拶を交わし、昔よく頼んでいたセットメニューを注文する。やっと落ち着いた気持ちで、PCを開き、メールをチェックする。だが、新着メールはなし。

ふと、スクロールしていたメールのリストに、見覚えのある会社名が目に入った。指が止まり、しばらく画面を見つめる。

さっき会った彼がいた会社だ。懐かしさとともに、軽い迷いが心をよぎる。でも、このタイミングで目に入ったのも何かの流れかもしれない。

「…メールでもしてみるか」

そうつぶやきながら、かつてお世話になった別の担当者にメッセージを打ち始めた。

何かが、ゆっくりと巡り始めている。そんな予感がしていた。

第2話「つながる瞬間」につづく