感謝が生む循環: 最終話

穏やかに満ちる心、未来への扉
毎晩寝る前に感謝ノートをつける習慣を始めてから、少しずつ日々が変わり始めた。お金さんのアドバイス通り、最初はほんの小さな感謝を1つずつ書き出すことから始めた。
毎日続けているうちに、感謝が自然と当たり前のように感じられるようになった。不思議な感覚だ。「今日も暖かい食事が食べられた」「彼女の笑顔が見られた」といった同じことに何度も感謝する日もあれば、散歩中に見つけた季節の花や、遠くに聞こえる鳥のさえずりに心を動かされ、新しい発見に感謝することもあった。ただ、何よりも驚いたのは、感謝の対象が「新しく手に入れるもの」から「すでにそばにあるもの」へと変わっていったことだ。それが実は一番大切なことだったと気づかされる瞬間だった。
それと同時に、天気の良い日には朝少し早起きして散歩をするようになった。この新しい習慣は、一日の始まりを穏やかで心地良いものに変えてくれた。以前のような瞬間的な達成感ではなく、心の奥からじんわりと静かな安らぎが広がる感覚だ。その余韻は一日中続き、自分を支えてくれるような安心感をもたらしてくれる。
1ヶ月が過ぎた頃、彼女と一緒に過ごしていると、ふいにこんなことを言われた。
「あなた最近雰囲気変わったよね。なんかいつも優しい感じで、前みたいな忙しない感じがなくなったよね。なんかあった?」
変わった理由を正直に話そうかとも思ったが、心の中に秘めておきたくなり、ただこう答えた。
「そうかな?まあ、少し意識を変えたのかもね。」
彼女は少し首をかしげて不思議そうな顔をしたが、その後すぐに微笑んで、
「なんかいい感じだよ」
と言ってくれた。その言葉は心にじんわりと温かく広がっていく。
一緒に過ごす時間が、こんなにも穏やかで心地よいものになるなんて、あの愚痴を言い合っていた頃の自分には想像もできなかった。彼女の隣で感じる温かな気持ちを、もっと大切にしたい――そんな思いが静かに心を満たしていく。
「いつもありがとうね。」
自分でも、彼女に向けた言葉なのか、それともお金さんに向けた言葉なのかわからなくなる。ただ、その瞬間、彼女は少し頬を赤らめながら「変なの…」と小さくつぶやき、照れたようにそっぽを向いた。
「ずっと一緒にいたいな」――初めて、心の奥底から湧き上がる純粋な想いを感じた気がした。
家に帰ると、郵便受けに毎月恒例のクレジットカードの請求書が届いていた。いつもなら封を開ける前に緊張が走るのだが、その日は不思議と落ち着いた気持ちでソファに腰を下ろし、封を開けた。
中身を見た瞬間、その額に思わず目を見張った。これまでの自分では考えられないほど少ない金額だったのだ。「今月はうまくいったんだな……」そう静かに言葉が漏れた。手にした紙が、ただの数字ではなく、感謝の積み重ねがもたらした成果として、心に染み入ってきた。ふと銀行口座の残高を確認した昼間のことを思い出す。減りすぎることなく、むしろ余裕が残っていた。
「こんな風にお金を管理できる日が来るなんてな……」
つぶやきながら感じたのは、自分の成長への小さな誇りだった。
「こんな小さな積み重ねで、人ってこんなにも変われるんだ。」
感謝ノートと新しい習慣の積み重ねが、少しずつ生活の中に目に見える形で表れ始めている。その変化は、心に静かで確かな自信を育んでくれているようだった。
「これで、僕たちの未来に向けて、少しずつでも前に進める気がする。」
ふと、彼女の笑顔が思い浮かぶ。こんな穏やかな日々がずっと続けばいい――いや、それだけじゃない。彼女がもっと安心して、幸せだと感じられる未来を作りたい。そのために、これからも自分にできることを続けていこう。そんな想いが、胸の中で静かに広がっていく。
カーテンを開け、夜空を見上げると、柔らかな光を放つ満月が浮かんでいた。その月明かりはまるで「大丈夫、見守っているよ」と語りかけているようだった。ふと時計に目をやると、22:22の数字が目に飛び込んできた。
「また、22:22か。」
それは、どこか特別なサインのようにも感じられた。心が不思議な温かさで満たされ、未来への希望がそっと胸に灯った。
第6章へつづく
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