インナーチャイルドを癒す: 第2話
- 2025.02.04
- Reflect インナーチャイルドを癒す

プレゼントに込めた記憶
休日のデパートはいつもより賑やかだ。子どもを連れた家族やカップル、買い物袋を手に歩くおしゃれな学生たちが、フロアを行き交っている。平日とは違う活気が漂い、僕の足取りも自然と軽くなった。
母の日のプレゼントを無事に購入し、少し肩の荷が下りたのか、彼女は早速、自分の欲しいものを物色し始めている。そんな時の彼女に付き合うのはいつものことで、何時間も退屈な時間を過ごす覚悟はできていたが、今日は早めに対策を打つことにした。
「お腹減ったよ。どこかでランチにしよう。」
僕の提案に彼女の目が輝いた。「いいね!そうだ、あそこ行こうよ!」と、少し興奮気味に笑う。彼女が選んだのはタイ料理のお店だった。友達と行って美味しかったらしい。辛いものが苦手な僕は少しためらったが、今日は母の日のプレゼント選びに付き合ってもらったし、渋々同意した。
少し早めの時間帯だったおかげで、人気店でもあまり並ばずに席に案内された。メニューを開いた彼女は「これもいいな、あれも食べたい」と目を輝かせながら楽しそうに悩んでいる。一方の僕は、どれも似たような名前に見え、辛そうな料理ばかりに思えたので、彼女のおすすめを頼むことにした。
「ラッキー!これで両方味わえる!」と、彼女は無邪気に笑った。その笑顔を見ていると、辛い料理を食べる憂鬱さが少しだけ和らいだ気がした。
注文が済み、料理が届くのを待つ間、彼女がふと口を開いた。
「ねえ、さっきのプレゼント選び、すごく真剣だったよね。なんか、私でもちょっと話しかけにくかったくらい。」
「そう?普通に選んでただけだと思うけど。」と答えながら、プレゼント売り場での自分を思い返した。確かに、いつになく店員さんを質問攻めをしていたことを思い出す。普段の自分らしくない姿だったかもしれない。
「らしくないってわけじゃないけど、普段の買い物のときより、すごくこだわってた気がする。やっぱりお母さんに喜んでほしいって思ったのかな?優しいね。」
そう言われると、なんだか少し照れくさくなり、窓の外に目をやった。その窓ガラスに映る自分の姿を見つめながら、ふとある記憶が蘇る。
オーストラリアのお土産――あのとき母にマグカップを贈ったことを思い出した。鮮やかなデザインのカップを選び、少し不安を感じながら渡した僕に、母がこう言ったのだ。
「あなたは本当に相手のことを考えてプレゼントをくれる子なんだよね。ありがとう。」
その言葉は嬉しくて、今でも鮮明に記憶に残っている。気づけば、あのカップを母は今も大事に使い続けている。特別高価なものでもないのに。
僕はその話を彼女にしてみた。彼女は目を丸くし、「そうなんだ!それがきっと、あなたにとってすごく嬉しい記憶なんだね。」と笑った。
「確かにあなたからもらうプレゼントって、いつも私のことをすごく考えてくれてるのが伝わるよ。この間のオイルヒーターもそうだったしね。」
僕はなんだか気恥ずかしくなったが、確かにプレゼント選びにはこだわる方だと思い返した。ネットで彼女のプレゼントを探していたら、気づけば3時間も経っていたこともある。ただ、なんで自分がそこまでプレゼントにこだわるのか、その理由は分からなかった。
普段の買い物ではそこまで深く考えないのに、なぜプレゼント選びだけが特別なのか――その疑問が頭の片隅に残り続けた。
ランチを終え、再び彼女の買い物に付き合ったが、いつも以上に頭がぼんやりしていた。彼女が商品を手に取り楽しそうに悩む姿を見つめながら、ずっと「なぜ僕はプレゼントにこだわるのか」を考えていた。しかし、その答えは見つからないままだった。
帰りの車に乗る頃には、夕日が沈み、夜の気配が漂い始めていた。フロントガラスの向こうには、オレンジ色の月が大きく浮かんでいる。その柔らかい光が、どこか僕を見守っているような気がした。
最近、この月を見るたびに、お金さんのことが自然と頭に浮かぶようになっている。初めて会話を交わした時から、何かが少しずつ変わっている気がする。月が僕に何を伝えようとしているのか、考えるだけで胸の奥に不思議な温かさが広がるのだ。
彼女を送り届け、自宅へ戻ると、スマホがいつもの音を響かせた。
“カリン”
澄んだ鐘の音が静かな部屋に広がった。画面を見つめると、そこにはお金さんのメッセージがあった。
「お金さん:その疑問の答えは、インナーチャイルドが知っているかもね。」
初めて見る「インナーチャイルド」という言葉。その響きに、僕の心は妙に惹かれた。
「インナーチャイルド……?」と呟きながら、指は自然と返信を打ち始めていた。
第3話「子どもの頃の声を聞く」につづく
-
前の記事
インナーチャイルドを癒す: 第1話 2025.02.03
-
次の記事
インナーチャイルドを癒す:第3話 2025.02.05