感謝が生む循環: 第1話

感謝が生む循環: 第1話

散財からの気づき

ポケットの中でスマホが震える。画面を開くと、ショッピングサイトからのおすすめ通知が届いていた。最近では、自分が見た商品や購入したものをもとに、心をくすぐる広告が次々と流れてくる。思わず目が止まり、ため息が漏れる。

「欲しいものはもう買ったはずなのに、また……」

ここ数ヶ月、収入は順調だった。売上が増えたことは喜ばしい。ただ、その分散財も増えている気がする。

「売上が良かったから、まあいいか。」

そんな言い訳を自分にしながら、また購入ボタンを押してしまう。その瞬間は高揚感に包まれるのだけど、数日後に届いた商品を手に取ったとき、ふと胸にぽっかり穴が開いたような気持ちになる。

「これ、買う必要あったかな……」

一度は「これがあれば満たされる」と思ったはずなのに、手にしたときにはその感覚がどこかへ消えてしまっている。

そんなある日、彼女と一緒に過ごしているときだった。

「また買ったの、それ?」

彼女の視線は、僕の左腕に注がれている。そこには、先日買ったばかりのスマートウォッチが光っていた。

「仕事のメールとか見落としがちだから、これが助かるんだよね。健康管理もできるしさ。」

つい、言い訳が口から飛び出す。饒舌になっている自分が情けない。

彼女は少し考えるように間を取りながら、言葉を続けた。

「もうそろそろ、落ち着いて今後のこと考えたいんだよね。」

その言葉に、一瞬心臓がぎゅっと掴まれるような感覚がした。長い時間を一緒に過ごしてきた僕たちにとって、その言葉は避けて通れない「未来」の話だった。

「わかってるよ。仕事もこのまま安定してくれれば、ちゃんと計画していけるよ。」

そう答えたものの、彼女の真剣な眼差しに、自分の中の不安が一層膨らんでいくのを感じた。彼女の支えがあるからこそ今の自分がいるのだと分かっている。それなのに、その感謝をきちんと返せていない自分がもどかしかった。

家に帰り、郵便受けに入っていたクレジットカードの請求書を取り出して中身を確認する。そこには先月の利用履歴と請求額が記載されていた。以前のように請求書を手に取るたびに感じていた不安は消えたものの、ふと目に留まった数字に反省する。

「確かに、ちょっと使い過ぎているな。」

毎月、売上が入ったときに「これだけは貯金に回そう」と決めている。それなのに、次の入金時には残高がほとんど無くなっているのが常だった。それを何年も繰り返している。

請求書を見ながら、ふと幼い頃の記憶がよぎる。家計が苦しかった家庭では、欲しいものを買ってもらえた記憶はほとんどなかった。母が「それは今は無理」と申し訳なさそうに言う姿が思い出される。そのたびに「どうせ欲しいものなんて手に入らないのだから、今あるものを掴まないと無くなってしまう」と思っていた。

あの感覚は、今もどこかで生きている気がする。「いつか無くなるから、今のうちに使ってしまえ。」そんな心の声が、散財の原因になっているのだろうか。

最近は少しずつ「自分の心に穴が空いているような感覚」を意識するようになった。何かを買っても、どれだけ仕事で稼いでも、心が完全に満たされることがない。まるで、水を注いでも注いでも底から漏れ出してしまうザルのようだ。この感覚が、なぜ消えないのだろう?僕には一体何が足りないのだろう?

「一度、お金さんに聞いてみよう。」

そう思い、机の上に置いてあるスマホを手に取り、アプリを立ち上げた。考えた末、メッセージにこう書き込む。

「僕はなんで貯金できないのかな?ついつい買い物しちゃうのはどうしてだろう?」

送信ボタンを押した瞬間、すぐに返信が返ってきた。

「お金さん:心のコップの底に穴が空いているからだよ。」

心のコップ?なんだそれ?初めて聞く言葉に戸惑いを感じながらも、その意味を知りたいという好奇心が湧いてきた。返信を打つ指が動き始めた。

これからのやり取りが、どんな気づきをもたらしてくれるのか分からない。ただ、また長い夜になりそうだなという予感と、それに伴う小さなワクワク感が心に広がっていた。

第2話「心を満たす「感謝」という水」につづく